それ何?(2)
前回の続きです。
ゴーン氏逃亡についてのニュースを分析し、前回はred noticeについて調べてみました。
Interpol issued a red notice Thursday for former Nissan car company chairman Carlos Ghosn. The notice is a request to law enforcement agencies around the world to arrest a wanted person.
(2)law enforcement agencyとは
今回、一番くせ者だったのがこの言葉です。
和英辞書を串刺し検索すると、「法執行機関」(ウィズダム和英辞典)「(米)法執行機関《警察・FBI・CIAなど》」(オーレックス英和辞典)と出てきました。
でも「法執行機関」って何?
大体、法を執行しない公の機関ってあるのかな??
今度は国語辞典で「法執行機関」を串刺し検索しましたが、まったくヒットしません。
「執行機関」ならたくさん出てきましたが、主要辞書は「法執行機関」という言葉を常用語として認識していないようです。
じゃあ、結局なんやねん。
AFP通信はred noticeの説明として「a request to law enforcement 」と書かれており、law enforcementの日本語は「警察」としていました。
An Interpol “red notice” is a request to law enforcement across the world to provisionally arrest a person pending extradition, surrender or similar legal action. It is not an arrest warrant.
「赤手配書は、送還や身柄引き渡しなどの法的措置が取られる可能性のある人物について、暫定的に身柄を拘束するよう各国警察に求める文書で、逮捕状ではない。」
https://www.afpbb.com/articles/-/3261927
https://www.france24.com/en/20200103-ghosn-to-be-heard-in-lebanon-as-japan-turkey-probe-escape
BBCでは、red noticeの説明として「a request to police」と書かれており、policeは日本語で「警察機関」と訳されていました。
An Interpol "red notice" is a request to police across the world to provisionally arrest a person pending extradition, surrender or other similar legal action.
「ICPOの「赤手配書」は、各国の警察機関に対し、身柄引き渡しや同様の法的措置を目的として被手配者の仮逮捕を要請するものだが、」
https://www.bbc.com/japanese/50980183
https://www.bbc.com/news/world-europe-50972149
メディアでの紹介や、そもそもこれはゴーン氏の国際手配についての記事であることを考えると、このlaw enforcement agencyは「警察」と考えた方が良さそうですね。
てなことをtwitterでつぶやいたところ、検察も含む「捜査機関」などとした方が良いのでは、というご意見もいただきました。なるほど。
現場でlaw enforcement agencyが出て、具体的にどの機関を指すのか分からない場合は、なるべく意味を広く取れる「捜査機関」や場合によっては「関係当局」などと対象を広げて後の情報を待った方が良いかもしれません。
今回の文章はそれほど難解なものではありませんが、訳し方に工夫がいる好例だと思います。
たとえ辞書やネットでヒットする訳語でも、オーディエンスがきちんと理解できるかどうかはまた別問題です。
ついつい既訳や辞書に出ている言葉だと安易に納得・流用してしまいがちですが、「それ何?」と敏感に感じ取るアンテナは常に張っておきたいものですね。