通訳者のプレゼン術
先日、テレビを点けっぱなしにしていると、ジャパネットたかたの通販番組が突然始まりました。
あ、あの「下取り一万円!」の社長が喋ってる。
あれ?あの人だいぶ前に番組引退しなかったっけ?
と思いましたが、実際はジャパネットの番組ではなくNHKのクローズアップ現代で、高田元社長が「プレゼンの極意」を語る特集でした。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4375/
思わず見ていると、通訳者にも役立つアドバイスが満載で、急いで録画してメモを取りました。
今日は通訳者にも役立ちそうな内容についてご紹介したいと思います。
(1)「伝えた」と「伝わった」は違う
高田元社長曰く、プレゼンでは「人を感じる心」が必要とのこと。
ただ自分の言いたいことを好きなように話すのではなく、そこにいるオーディエンスと「会話」をすることが大切らしいのです。
そのために、身振り手振りを加えながら伝えたい言葉を何度も繰り返します。
そして、観客に「そう思いません?」「~でしょう?」と呼びかけることでオーディエンスとの一体感を高める工夫をされていました。
通訳者は、スピーカーの考えをオーディエンスが理解する別の言語で代弁します。
スピーカーの言葉を単に「伝える」のではなく、その思いまで「伝わる」ように工夫してデリバリーしたいものです。
ジェスチャーは立ち位置によっては難しいかもしれませんが、観客に語りかけるというのはいろんな場面で使えそうです。
(2)アナウンサーは堅牢な水道管
これは、司会の武田真一アナの言葉です。
普段、武田アナはできる限りアナウンサーの存在に気付かれないくらいに情報を「真水」のまま視聴者に届けたいと思っているそうです。
「アナウンサー」を「通訳者」に変えると、すごくうなずけるなぁと思います。
スピーカーの言葉をねじ曲げることなく、自然にスピーカーの言葉をオーディエンスに届けるようにしたいものです。
(3)ここぞというときは「太字ゴシック体の声」を使う
普段は「堅牢な水道管」ですが、これは特に届けたい、振り向いてもらいたいと思うときは「太字ゴシック体の声」を使います。
例えば「Uターンラッシュで大渋滞です」という一文を強調したいときは、いつもよりも声を張り、
Uターンラッシュで、大・渋・滞、です
と、一つ一つの音を区切るようにして読むようにしているそうです。
また、高田元社長も、声の強さ・弱さ、高さ・低さで緩急を付けているとのこと。
そして、強調したいことの前後に、ほんの一瞬間を置くだけで売上が5倍も変わるとか。
これも、通訳に応用できる技術ですね。
まだまだここまでできていなかったなぁと反省しました。
(4)心の底から思っていることだけを口にする
では、何を強調すべきかは、どのような基準で決めるのでしょうか?
武田アナは、ニュース原稿を読む前に取材担当者や執筆者に何が重要かを確認した上で、その内容を自分の「腹に落とす」そうです。
現場で感じた熱量を自分が受け継ぎ、自分で考えて表現できるようにするためです。
こうしたプロセスを経て自分なりに心の底からその情報を理解した上でニュースを読み上げます。
たとえ用意された原稿であろうと、自分が腹落ちしたことだけしか話さない(=全てを理解した上で視聴者に届ける)という覚悟だと私は感じました。
武田アナは長年NHKの看板的な存在ですが、こういった努力が違いを生むのだなぁと思いました。
私も、武田アナのような覚悟で通訳に望みたいものです。
思わず見てしまった番組ですが、非常に勉強になりました。
精進したいと思います。