インポスター症候群
前回の更新からなんだかバタバタしており、気づいたらすっかり季節は夏(というか梅雨)ですね。
この前、逐次通訳勉強会で取り上げられたトピックは「インポスター症候群」でした。
初めて聞く言葉だったのですが、「自分の力で何かを達成し、周囲から高く評価されても、自分にはそのような能力はない、評価されるに値しないと自己を過小評価してしまう傾向のこと」だそうです。
インポスター症候群はとくに女性、しかも専門職や優秀な女性が陥りやすい傾向らしいです。
通訳者も、どれほど懸命に努力して結果を出しても「自分はまだまだだ」「運がよかっただけだ」と思いがちで永遠に自信を持てない傾向がある、というようなお話でしたが、一緒に受講していた皆さんも身につまされるような表情をされていたのが印象的でした。
通訳者は優秀な人が多いからインポスター症候群が多い、というよりも、通訳者は常に自分の実力が試され、しかもそれが聴衆に問答無用で披露される、という仕事の性質が大きいのではないかなぁと個人的には思っています。
通訳というのは本当に残酷で、理解できなかったり、原文に相当する訳語が出てこなかったりすると、恐ろしいほど何も言えなくなります。
通訳者を志す人の多くは、自分には平均をはるかに上回る語学の能力がある、と自負していると思います。
しかし、よりによってその語学で大恥をかき、ぐうの音も出ないほど打ちのめされる、という経験をほぼ全員がしているのではないかなぁと思います。
恥ずかしながら私自身も、通訳で自分の小さなプライドが木っ端みじんに砕かれるという苦い経験を何度もしています。
大学に勤めていた頃は、周りに英語が苦手な方が多かったこともあり、ブロークンな英語でも、もっと言えばアルファベットにアレルギーがなければそれだけで重宝してもらえました。
しかし、意気揚々と通訳学校の門をたたくと状況は一変します。
テープを聴いて「ハイ、訳して!」となった瞬間、頭がフリーズして黙ってしまったり、ちんぷんかんぷんなことを言って教室が妙な雰囲気になったりしたことも一度や二度ではありません。
時には、クラスで私だけ何度聞いても意味が分からず、他の受講生が見るに見かねて助け船を出してくれたことも・・・。
同時通訳のクラスに進級すると、次々とクラスメートが見事な同通をこなす中、私だけ何も言うことができず、先生に「ここはちょっと難しかったですからね」とフォローされる始末w
私ほどではないかもしれませんが、他の通訳者の皆さんも同じような経験をされたことがあるのではないかなぁと思います。
うまくいかずに「もうだめだ」と思ったときは、一度その思いを脇に置いて現場ではベストを尽くす、というのが大切らしいです。
「こんなこともできないなんて」とネガティブな感情が出てきたら、一息入れて本当は自信がなくても堂々たる態度で最後までやり通すことで自然とネガティブな感情も薄れていくとのことでした。
反省をするのは、仕事が終わった後。
現場では最善を尽くす、というのが重要なのだそうです。
練習では自分が一番下手だと思え、現場では自分が一番うまいと思え、とよく言われますが、本当にそのとおりだと思います。
日々の努力や積み重ねももちろん重要ですが、現場でどんなに厳しい状況になっても「私マジ最強」と開き直れるある種のずうずうしさも必要ではないかなぁと思います。
心から「私マジ最強」と思える日が来るのかは分かりませんが、Fake it till you make itの精神でがんばろうと思います。